化石燃料の大量消費によるエネルギー資源の枯渇が地球規模の課題になっている。さらに、二酸化炭素に代表される温室効果ガスによる地球温暖化の懸念も広がっている。そこで、従来の化石燃料の代替として注目されるのが、バイオマスなどの有機質資源の活用だ。
 「有機質資源とは、具体的には植物や廃棄されていた未利用の有機物を指します。有機質資源から生産されるエネルギー源の代表格は、バイオエタノールです。これは木質・草質セロースを加水分解して得た糖質を発酵させることで精製できます」

 そう語るのは、応用化学コースの中山良一先生だ。セルロースは、植物の主成分で、資源としての活用に関しては、ずっと前から注目されてきた。しかし、変換プロセスにおける廃液処理の環境負荷が高いこと、燃料製造後の分離精製プロセスが複雑であることなどから工業化に向けた課題が多いことが問題視されていた。そこで注目されるのが、酵素を用いて有機質資源をエネルギーに変換するプロセスの構築だ。

 「セルロースは酵素を用いることによって、常温・常圧の温和な条件で容易に物質変換できるため、環境負荷の少ない反応プロセスを確立できます。ただ、工業化に向けた大量生産手法確立には課題が多数あります。そこで私は前処理として、セルロースに超音波を照射することで、反応を促進する手法を研究しています。実験では、反応生成量の増大、反応速度の促進などがデータでも確認されています。これからは、新しい化学プロセスとして発展させたいと思います」

 学生時代は、化石燃料由来の高分子、つまりプラスチックの研究をしていた中山先生は、次第に生物由来の高分子である「生体高分子」に関心を持つようになり、現在に至る。生体高分子である木質・草質セルロースは、「グリーンカーボン」と呼ばれ、代替資源として世界的にも注目されている。生物学と化学の知見が融合した「生物化学工学」と呼ばれるこの研究領域に大きな可能性を感じているという。
 「有機質資源の活用をエネルギー分野における新たな選択肢にするのが私たち研究者の使命です。工業化に向けて、反応容器の開発など、課題はたくさんありますが、超音波照射による反応促進効果を工業的に利用できることを証明して、連続的かつ高効率な生産手段を確立したいと思います」